
MEMSカートリッジ38^2[A-00]
A-00はアルファベットの最初のAと、数字の基準点である00からネーミングしました。より深い根源的な「何か」を求め何度も出発点や基準点に立ち戻り試行錯誤する、その意思の表れです。
物質と人間が奏でる「闘いと愛おしさ」
V12エンジンが放つ高回転域の咆哮も、ストラディバリウスの木片が限界を超えて叫ぶ振動も、すべては高次モードという暴走する物理現象と、それを抑えようとする人間の知性との高次元の対話(いたちごっこ)から生まれています。
「高次モードの揺らぎ」
数ミリの針が溝を疾走し、超高周波の領域で密かに発している高次モードの叫び。その微小な振動こそ、針という物質が生きている証であり、100年前のアーティストと共振する隠された領域です。
従来のカートリッジは、メカニカルな振動を電気信号へと変換する「機械」でした。しかしこの方法は、針の振動をダイレクトに空気の波として捉え、マイクという「聴覚の延長」で受ける。そう、「針という演奏者にマイクを向ける」、100年前に録音技師がアーティストにそうしたように。
数値やスペック上の歪みをゼロに近づけることが至上命題となった現代の工学は、不要な高調波を徹底的に切り捨て、無菌室のような正弦波の正しさを追い求めました。しかし、人間が本来心を震わせるのは、完璧に計算された無音や直線ではなく、物質が抗い、軋み、共鳴し合う中で生じる「高調波の乱舞」そのものです。
開発は、単に機械を作っていた時間ではなく、「針に自由を与え、その声をいかに真摯に聴くか」という哲学を形にするための、巡礼のような時間だったのだと思います。
・MEMSマイクの出力(200mV)がもたらす圧倒的アドバンテージ
従来のMCカートリッジが出す微小信号(数ミリボルト〜マイクロボルト単位)では、高い倍率の増幅回路(ヘッドアンプや昇圧トランス)を通過させる必要があり、その過程でノイズや歪みが引き起こされていました。 対して200mVというレベルは、すでにラインレベルに近い高出力です。無理な多段増幅を行わず「軽微なイコライジングとバッファのみ」で完結させられるため、信号経路は極限まで純粋に保たれます。
・物理的なプッシュ・プル(差動)関係
針が左右へ揺れるとき、右のマイク側が(正圧)になれば、対向する左のマイク側は必然的に(負圧)になる。自然界の物理現象そのものが、完全な逆位相の関係を形成しています。
・電気的・回路的な合理性
片チャンネルの位相反転を行うだけで、ステレオのセンター成分(横振動)が正しく加算され、ノイズ成分(縦振動)が引き算されます。
・「引きずらないノイズ」という物理現象
従来のカートリッジは、大きな等価振動質量(等価慣性質量)とカンチレバーやダンパーの保持機構を持っていたため、盤面の微小な傷を拾った瞬間に「針自体が慣性で尾を引くように余計に揺れる」状態にありました。それが湿った「プチッ」というまとわりつく雑音の正体です。 一方、このシステムは等価質量が極限まで小さいため、傷を通過した瞬間のインパルス応答が鋭く立ち上がりすぐに収束します。ノイズは点のまま立ち上がり、一瞬で消え去る。そのため、人間の耳には「ノイズが減った」と感じるのです。
・デジタルアンプの「超高速な監視回路」とのバッティング
一方、現代のデジタルアンプは、スイッチング素子(MOSFET等)を守るために出力電流や電圧の過渡変化($\frac{di}{dt}$ や $\frac{dv}{dt}$)をマイクロ秒単位で監視しています。
ウーファーのコーン紙すら動かないほどの超高速・高エネルギーなスパーク的パルスが届いた瞬間、デジタルアンプ側はそれを「入力信号」ではなく「出力短絡(ショート)や異常なスパイクノイズ」と判定し、瞬時にリミッターやプロテクトを発動させてしまう厄介な事象も確認されています。
通常のオーディオ回路($20\text{Hz} \sim 20\text{kHz}$想定)では、一般的な低周波オペアンプや電解コンデンサ、フィルムコンデンサが使われます。しかし、MEMSマイクが拾い上げる高速パルスや広帯域な信号に対しては、それらの素子は寄生インダクタンス(ESL)や寄生抵抗(ESR)によって高域が鈍り、位相が回り、追従できなくなります。
・高周波用MOSFETの採用
入力容量($C_{iss}$)が極めて小さく、スイッチング速度や周波数応答特性($f_T$)が非常に高い素子を使うことで、MEMSマイクが出力する超高速な過渡応答(立ち上がりの鋭い信号)をスルーレートの飽和や波形の鈍りなしに受け止める。
・パスコンへのMLCC(積層セラミックコンデンサ)の投入
高周波領域での等価直列インダクタンス(ESL)が極めて低いMLCCを電源ラインやパスコンに配置することで、超高周波ゾーンでの電源インピーダンスを極限まで低く保つ。高周波パルスが飛び込んできた瞬間の電流要求に対しても、一切の遅れなく電源を供給できます。
・MEMSマイク・データシートの罠とNFBの限界
メーカーが表記する「出力インピーダンス300Ω」は、あくまで日常的な静的レベル(90dB程度の音圧)で内蔵アンプのNFB(負帰還)が正常に効いている時のカタログスペックに過ぎません。しかし、1mm以下の音導管から叩き込まれる破格の空気スパイク(強烈なプッシュ・プル)が来ると、内部アンプのNFB補正が追いつかずに帰還量が激減し、一気に歪みとクリップを引き起こします。
・高周波MOSFET直結による無負担化
MEMSマイクのすぐ直近に高周波MOSFETを置き、ゲートのほぼ無限大の入力インピーダンス($\approx \infty\ \Omega$)で受ける。これにより、マイク側から見れば「電流を一切吐き出さなくて良い(無負荷状態に近い)」ことになります。マイク内部のアンプに電流負荷の重荷を背負わせないからこそ、過酷な空気振動の入力に対してもNFBが破綻せず、信号を放出し切ることができるわけです。
固体の直結による過酷な衝撃や物理的負荷(拘束)は避けつつも、極限まで伝達ロスを削ぎ落としたい
・「空気」という完璧な極上のトランス
もし針とダイヤフラムを固体でダイレクトに繋いでしまえば、結局それは「針やダイヤフラムそれぞれに過大な重荷を負わせる」ことになり、真の自由は奪われます。しかし、1ミリ以下のわずかな空気層(音導管)を挟むことで、空気という流体が柔軟なバッファーとなり、針の伸びやかな躍動を一切妨げません。
・物理法則が自ずから行う「最適化」
疎らな空気分子の物理的な疎密運動そのものが、針から放たれた高次モードの荒々しいエネルギーを「ダイヤフラムが受け止められる疎密波の形」へと自律的に調律してくれるのです。
・空気そのものが「支えるバネ(サスペンション)」となる
ゴムや金属ダンパーのような固形物で支えれば固有振動や追従性の遅延が起きるのに対し、極小の空気層自体を「サスペンション」とすることで、重力に抗う支柱と、針を拘束しない自由度が見事に両立します。
・MEMSダイアフラムのたわみを防ぐ背圧の相殺(無指向性マイク)
表からの静圧(空気サスペンションの重み)でシリコン膜が撓んでしまえば、マイクの動作点がズレて波形が歪みます。しかし、背圧を密封(無指向性マイク)してバックキャビティの圧力を表と同等に保つことで、薄いダイアフラムは「差圧ゼロ(ニュートラル)」の理想状態で待機できる。
・ボロンロッドと3点支持構造
・機械的インターフェース(5mmボロンロッド)
針先の微小な点振動を、MEMSマイクのダイアフラム面へ正しく伝える機能。高比弾性率と超高音速特性を持つボロンを採用し、伝達ロスや共振を排除する。
・当接支点による前後ブレの完全固定
ボロンロッド後端(お尻)を半球状に加工し、点接触させることで前後の不要な振動・変位を抑え込む。ゴムダンパーやテンションワイヤーのような伸縮・たわみによる音の濁りを根本解決する。
・斜め45度アームと空気サスペンション(3点支持)
斜め下45度に設けた突起(バールの腕)を音導管内の気圧で支える。中央の当接支点を軸としたボールジョイント型のピボット運動を構成し、有害な前後運動のみを遮断して上下左右の自在な遊動を可能にする。





