MEMSカートリッジの世界
MEMSカートリッジとは、私、宮司正之が発明したフォノカートリッジの一種です。
その仕組みは、レコードをこする針の音をマイクロフォンで拾うというものです。考え方としてはとても簡単ですが、実際はとても難しく、蚊の鳴くような小さな音をしっかりした音として拾うためには課題がいくつもありました。音導管と私は名付けましたが、針の根本とマイクを気密接続するための構造などを考案しました。
具体的な問題解決の方法としては、幾つかの特許を出願しましたので、詳しく知りたい方はどうぞご覧になっていってください。このページの下の方にリンクを貼ってあります。
このページでは、以前から私が行ってきたMEMSカートリッジの開発を時系列で並べています。
コンデンサマイクを使う以前のピックアップ(速度比例型)
2009~2010
以前は、イヤホン用ドライバーを使っていました。ご覧の通り、蓄音機のサウンドボックスそっくりです。ダイヤフラムは専らボイスコイルをギャップ内に保持するために残したのであって、発電はボイスコイルで行います。ですから速度比例型になります。しかしながら、極端に狭いピックアップ周波数帯域のため、フォノアンプを通してもあまりメリットがなく、普通のフラットなプリアンプで鳴らしていました。出力レベルは高かったので、高利得のプリアンプなら十分実用レベルでした。
筐体は紙を巻いて作っていました。(一番楽な方法なため)
下の写真は、反発磁気回路を用いた速度比例型ピックアップです。紙のカンチレバーに竹針、鉄針、サボテンのとげなど、何でも挟むことが出来ました。針圧は10g程度必要です。
ECMフォノピックアップ(振幅比例型)
その後にコンデンサマイク(ECM:Electret Condenser Microphone)に目を付け、後にさらに小型のMEMSを採用することになります。
黎明期2011~2013
2011年制作 もっとも初期のECM式のピックアップです。 ただ単にキャップのようにかぶせて使うもので、とても単純な構造です。振動膜は紙で出来ています。ちょうど紙コップの糸電話と同じです。
音も蓄音機の張りのある中音域そのもので、極端に狭い音域、ピーク感があり兎に角面白い音でした。
2011年制作 もっとも初期のECM式のピックアップです。 ただ単にキャップのようにかぶせて使うもので、とても単純な構造です。振動膜は紙で出来ています。ちょうど紙コップの糸電話と同じです。
ステレオ初期 2014~2016
マイクはECM、カンチレバーはビーズ溶着、鎖支点
2013年12月についにEMCフォノピックアップはステレオ化されました。 このころのピックアップと現在のピックアップと大枠では変わっていません。
MEMSは、ご覧のようにとても小さな部品です。
マイクはECM、カンチレバーはビーズ溶着、鎖支点
MEMSカートリッジ
市販に向けた試作品 2017~2019
市販化に向けての試作品
ボディーは3Dプリンターで出力した。素材はチタン
アームから外し、上を向けた所です。
市販化に向けての試作品
MEMSとはMicro Electro Mechanical Systemsの頭文字で、半導体集積回路の技術から生まれたものです。極微小な機械構造をシリコンウエハにプリントして作成する技術です。マイクロフォンとしての仕組みはECMと同じです。
「針の振動を一度わざわざ空気に伝えてマイクで拾うなんて、性能を落としているようなもの、全くナンセンス」
そう思う方も多いでしょう。確かに、理想は針の振動を何も介在させず一つの工程のみで拾うのが一番良いでしょう。ただ私は、あんなに小さなMCカートリッジのコイルのみで、針の振動エネルギーを余すことなく電気信号に変換できているのだろうか?という疑問を抱きました。例えば自動車だって、エンジンに直接タイヤを付ければ効率よく走れるかと言えば、そうではありません。エンジンには力を効率的に取り出せる回転領域があり、そこをうまく使うためにトランスミッションは必須です。カートリッジの話に戻りますが、針に余分なものを付けなければそれだけ針はモーメントが小さく正確に動きます。その針の振動をマイクの得意な音圧に変換することが出来れば、仮に空気を介在させてロスが出ても、全体として性能が良いのではないかという発想です。
ただし、これは推論に過ぎません。実際の所は、音楽を聴いて、それが耳に心地よいかどうか、だけです。
正直、私も最初はあまり期待していませんでしたが、最初に出てきた音がエネルギーの塊という感じで、あまりにも衝撃的だったものですから、このように泥沼にはまってしまいました。
最もハイコンプライアンスなカートリッジ 2024.09製作(自分用)
優先順位の低いものはすべて排除して、徹底的に軽量化しました。
アームを含めて15g程度しかありません。その上f0は5Hzです。
今更MCカートリッジには戻れない
ロケットならば、計算を間違えれば軌道を外れて打ち上げ失敗と言えます。オーディオは音楽を聴く道具です。
失敗か成功か?は何とも言えません。いつも自問自答して、終わりのない旅路を歩んでおります。
受注生産及び委託販売品 2019~2023
MJ-10
2019年4月~2020年3月まで限定10台を受注生産いたしました。マルエージング鋼の筐体で、デザインはフレームむき出しのヌードデザインと呼ばれるものです。
製造販売元:38空間
2024/4~
殆どを回路基板と3Dプリントで作成しました。初期の製品は、これ見よがしな所がありましたが、年を経るごとに丸くなりました。肩肘張らず、音楽を楽しむための製品を目指しています。製造販売元:38空間
MYJ-P2
2021年4月発表 商工会議所さんに相談しまして、地元浜松市の加工業者様に手伝っていただき完成しました。黒檀の削り出しハウジングが特徴です。販売元:沢田工業株式会社
MEMSカートリッジ関連の特許
https://patents.google.com/patent/JP6695532B2/
地元の弁理士にお願いしました。2018年に出願しまして、2020年に登録されました。基本構造の特許です。
https://patents.google.com/patent/JP2021087212A/
2019年に早稲田大学の1ビット研究会への参加の時に、山﨑芳男先生と共同出願いたしました、デジタルMEMSを使ったカートリッジの出願です。私のようなはみ出し者が、まさか早稲田大学で発表させていただけるとは思ってもいませんでした。感謝しております。
https://patents.google.com/patent/JP2022011455A/
生産性を考慮して、回路基板上にすべて構成できるように、改良を行った出願です。とは言え、プレスでガチャガチャ大量生産するにはまだまだハードルが高いです。
請求項1では、先の特許のものに「振動羽根と複数の音導管」というワードを追加しました。振動羽根だけでは明確な違いを表現できないと思ったので、複数というワードを追加した形です。音導管が1個の形態は不安定で音も悪いのでサポートされなくても
良いと考えました。
2と3は振動支点と方向についての記述です。これも以前の特許に倣ってワードを追加した形です。4はMEMSマイクに言及しました。MEMSマイク以外は大きさを考えても現実的ではないので、捨てました。5と6はどのように多次元振動を出力するか、インターフェース回路の言及です。
明細の背景技術のところで、コンデンサ型ピックアップカートリッジと蓄音機についても触れました。今回の発明にどのような新規性があるのかを明確に表現しようと思いまして、「最初は蓄音機とコンデンサマイクの単なる組み合わせだった」と記述し、新しく考えた機構と対峙させて、すでにホームページやイベントなどで公開している今までのピックアップとの違いを表現したつもりです。